(H.G.ウェルズ作/飯島淳秀・訳/太田大八・絵)
(1981年 第11刷発行)
★斉藤伯好訳・
ハヤカワ文庫版
(書評:火星人襲来から111年後、突然の映画化!
今なぜ、『宇宙戦争』か……?)
ウェルズがこの作品で火星人を来襲させたのは、1894年という設定でした。
その111年後の2005年、映画化!
『20世紀少年少女SFクラブ』を開設している私としては、何か書きたいところ。
しかし、あまりの多忙により、このHPの更新自体が本当の久しぶりとなります。
2004年10月下旬に時空警察捜査一課 PART4
が最後の更新ですか。その前が、その半年前の オトナ帝国復興計画宣言!?
ですが、これは実は掲示板を転載したもの。
純粋にジュヴナイルSFについて書いたのは一体どれくらい前になることやら。
決してジュヴナイルSFやこのウェブサイトへの関心は薄れたわけではありません。
いつも読みたい書きたいと思っているのですが、どうしてもそれに割く時間や労力がなくなってしまうのです。
しかし、『宇宙戦争』が私を呼んでいる!これについて書かねばSFファンの名がすたる!
……ということで、久しぶりに書いてみます。以前の調子で書けるかどうか不安ですが。
そもそも私がSFを意識したのは、あかね書房 少年少女SF文学全集19
『怪奇植物トリフィドの侵略』を読んだことでした。
それまでもベルヌやウェルズの作品は読んでいたのですが、空想色の強い文学作品、という位置づけで読んでいました。
本屋の無い田舎に住んでいた私は、母親が用事で都会に行く時に着いて行き、本屋であかね書房の全集を2冊づつ買ってもらったのです。
まずは、あの『怪奇植物トリフィドの侵略』と『宇宙怪人ザロ博士の秘密』。
次に行った時は『さまよう都市宇宙船』と『宇宙戦争』でした。
そして次に行った時は……。この全集、書店から消えていました。
書店にはいつまでも本は無い、欲しいと思ったときに買わなければいけない、ということです。
ともかく、この4冊は順番に何度も読み直しましたね。
当時は夜寝る前に布団の中で本を読む習慣があったのです。
今でも覚えているのですが、ある時などは、この4冊を1冊あたり2日間ずつで読んでいました。
幸せな読書体験を持てた時代。
ところが、映画化を機にウェブサイトのために同じ本を図書館で借りてきた現在、読むのに一苦労。
貸し出し期間を1度延長しても読みきることができず、もうすでに返却期限は切れています。
疲れて眠るだけの毎日、本を読むのは時間的にも体力的にも辛いところです。
夢に満ちてSF小説を読んでいたあの頃、21世紀の未来の世界でこんな苦しい生活を送ることになろうとは思いもしなかった。
どこかで道を誤り、行ってはいけない道を選んでしまったようです。
さて、問題のあかね書房版『宇宙戦争』です。
火星人の乗る三本足ロボットが光線を発射して人々が逃げまどう表紙が印象的です(絵:太田大八)。
物語を読んで、ウェルズが描いた描写から火星人や火星人の乗るロボットをイメージするのはなかなか難しいことです。
しかし、この本では挿絵で描かれていたので、その後、私の『宇宙戦争』のイメージは、この太田大八さんの挿絵によるところが大きい。
(創元SF文庫から新訳版で出た『宇宙戦争』では、初版本の挿絵が収録されているようです。)
さてこの本では、表紙を開いたカラー口絵では、火星人のロボットの中から描いた挿絵が収録されています。
5人の火星人が望遠鏡を覗いたりデータを見たりして、中央の一体は窓の外を見ながら操縦桿を握っています。
窓の外には、破壊される街の光景が見えます。
こういった視点から描いた挿絵は、世界でも珍しいのではないでしょうか。
さて、物語です。
物語では、毎夜0時に、火星からロケットが発射されることになっています。
それは10夜続き、それ以後発射はされていないようです。
後にこのことについて、主人公が知り合った砲兵は、火星人のロケット発射装置が故障したが、すぐに修理されるだろう、という説を出しています。
ところで、毎日同じ時間に発射といっても、地球の1日が火星の1日と同じでなかったら成り立たないではありませんか。
つまり、自転周期が違うのではないか、ということ。
調べてみたところ、地球と火星の自転周期はほとんど同じだそうです。
火星の自転周期は約24時間37分なので、毎日同じ時刻に観測すると、前日よりも約9度東の面が
見えていることになります。40日たつとまた同じ面を見るわけです。
観測していて40分経過すると、その間に火星は東に約10度自転します。
(火星リンク集 http://astro.ysc.go.jp/mars-links.html)
だから火星のロケット発射基地において、毎日同じ時刻に発射されたロケットは、皆イギリスに落ちたということです。
ベルヌは科学的データを取り入れて小説を書いたと言われていますが、自転周期がほぼ等しいというデータについてはウェルズも考慮していたのだろうか。
ところで、この物語の語り手「ぼく」は、一体どんな職業の人でしょうか。
はっきりとは記述されていませんが、著述家というか、文章を書いている人のようです。
火星人の侵略が開始された当時も『文明の進歩と道徳観』という論文を書いています。
ウェルズ自身を投影したような人物です。
物語では、医学生である主人公の弟の体験談も挿入されています。
語り手自身の物語と弟の物語が描かれたことにより、話の展開に奥行きが出ています。
さて、火星人がいよいよ都市の破壊に動き出し、語り手は逃げるために居酒屋に馬と馬車を借りに行きます。
その居酒屋のある地区は、まだ火星人の動きが伝わっていなくて人々はゆっくりしています。
語り手は馬と馬車を借りることに成功します。
しかし、いずれこの地区にも火星人襲来のニュースは伝わり、人々は逃げる羽目になります。
何も知らずに馬車を貸した居酒屋の主人は可哀想だと思います。
馬車を手に入れた語り手は、妻を安全な場所(いとこの住むレザーヘッド)に預け、すぐまた戻ります。
「夜中までには、きっと返すから。」
という居酒屋の主人との約束を果たすために。
今から戻っても火星人が街を破壊した後で、居酒屋の主人も逃げた後だろうに。
馬と馬車を返すために戻った語り手は火星人の三脚ロボットに襲われ、馬は死んでしまいます。
何たる偶然か、その後、語り手は居酒屋の主人の死体を発見します。
この居酒屋の主人のこと、気になります。
さて、物語中では、火星人の生理について、物を食べずに他の生物の生き血を自分の血管に注射する、と説明されています。
異種の生物の血を直接血管に注射するとは、現代の科学では考えにくい発想です。
免疫反応とか血液型適合性だとか、色々な問題がありそうです。
異郷においてこんな不衛生な食生活をしている火星人が感染症で全滅してしまうのももっともなことです。
の項目でも指摘しましたが、まだ科学が十分発展していなかったからこそ描けたこともあるでしょう。
また、火星人の文明で特筆すべきことは、
「車輪をつかっていないこと」
だという指摘が興味深い。ウェルズは一体何でこんな設定にしたのでしょうか。
果たして映画で車輪が出てくるかどうか、意地悪な注目をしてみましょう。
もう一つ、興味深い記述があります。
「科学的な推理小説家として、かなり名の知れている人が、火星人が来襲するずっと以前に発表した著作がある。
それは、遠い未来の人間についての予言であった。……」
……と、この作家は、人間は将来脳と手だけ発達し、他の部分は退化する、と予言しているようです。
ここで登場する科学的な推理小説家には、ひょっとしたらモデルがあるかもしれませんよ。
アーサー・コナン・ドイル (1859年5月22日 - 1930年7月7日)
ハーバート・ジョージ・ウェルズ (1866年9月21日 - 1946年8月13日)
ウェルズが少しばかり年長の同時代人のドイルを意識してこの部分を書いたとすれば、面白いですね。
↑『宇宙戦争』もう一つの物語。シャーロック・ホームズとチャレンジャー教授の競演!
さて、今まで忘れていたのですが、今回読み返して驚いたことがありました。
実は火星人の地球侵略はまだ終わっていない、という設定であったことです。
火星人が今度は金星に向かってロケットを発射したことが確認された、という記述があります。
「火星人は、かならず、地球攻撃の冒険をくりかえすだろう。われわれは、じゅうぶんに準備をしておかなければならない。」
そうなのです。宇宙人に限らず、小惑星の衝突など、宇宙からの危機に人々が協同して対処しなくてはならない時期に争っているとは……。
20世紀後半に生きていた我々は、未だに争いが続いている21世紀を予想していたでしょうか。
我々は、どこか間違った道を選択してしまったのかもしれません。
そのような時代、『宇宙戦争』を観て人類の未来と平和と争いについて考えてみるのもよいかもしれません。
2005年7月下旬
↑二人のウェルズ氏に捧げられた作品。ほろ苦青春味。
↑宇宙人がせめてきた――パニックものがたり でも紹介したラジオドラマ
なお、当エントリーは
少年少女世界の名作文学ブログ 第5回配本 SFの古典・宇宙戦争
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