空想力、冒険心、勇気、愛情をはぐくむSFの名作集!

<エスエフ>世界の名作
SFこども図書館(岩崎書店)


第25巻 合成怪物(旧題:合成脳のはんらん) 
      The Cybernetic Brains by Raymond F. Jones,1950

(ジョーンズ・作/半田 倹一・訳/三輪 しげる・絵)

(1976年2月20日 第1刷発行)

 

(登場人物)

ジョン……人工頭脳センターで働く、一流の生化学者。

マーサ……ジョンの妻。人工染料の研究者。

デミング博士……マーサの兄。人工頭脳学の一流の学者。

ヘニンガー管理部長……デミング博士の上司。人工頭脳に組み込む優秀な脳を得るために暗躍している。

キャサリン……デミング博士の妻。デミング博士の仇を討とうとするが、ヘニンガーに雇われた協力党の構成員に襲撃され、殺される。

ランドルフ記者……デミング博士の遺書を公表しようとするが、協力党に暗殺される。

マクレー……協力党の親玉。人工頭脳センターから、表ざたにできない用事をいいつかっている。



(あらすじ)

 人工頭脳センターで働く一流の生化学者・ジョンは、マーサとの自動車での新婚旅行中、黄色い暴走車にぶつけられ、谷底に墜落してしまう。気が付くと、ジョンの脳は、人工頭脳センターの実験室にいた。
 人工頭脳センター、正式にはアメリカ政府頭脳センターは、アメリカの中枢である。
 優れた人間の脳をコンピューターに組み込んだ人工頭脳が、アメリカ政府の方針を素早く・正しく導き出している。
 おかげでアメリカは豊かとなり、世界の国をリードしているのである。
 人工頭脳センターには、優秀な科学者が集められ、人工頭脳を使って研究している。
 そして死んだ時には、脳を人工頭脳センターに提供する約束である。

 しかしデミング博士の研究により、人工頭脳に組み込まれた脳も、生前の意識を持っていることが分かってきた。
 脳は、休むことなく永遠に働かされるのである。
 人工頭脳センターの上層部の研究者達はこれを知ると、密かに死後に脳を提供する約束を反故にしてしまった。

 また、現在の人工頭脳に飽き足らない上層部は、さらなる優秀な脳を求めて、密かに暗殺を開始した。ジョンとマーサもそのために殺されたのである。
 デミング博士は、このような人道に外れたことはすぐにでもやめなくてはならない、と委員会で主張する。しかし、3発の銃弾によって殺されてしまう。

 ジョンの脳は、人工頭脳の中に組み込まれた。
 ジョンは生前、生命を作る研究をしていた。細胞に放射線を当て、その細胞の集まりで、自分の指図通りに動く生物を作る研究をしていたのである。
 人工頭脳センターの中にジョンの研究室があり、その中に助手の技術ロボットがあった。このロボットは、人工頭脳が出す電波で操縦できる。今、人工頭脳に組み込まれたジョンは、人工頭脳を使って助手の技術ロボットを動かそうとしている!

 技術ロボットは、4日かかって、奇妙なものを一つ、作り上げた。人のこぶしぐらいの大きさの、白くてぶよぶよしたもので、大きな目が一つだけついていた。ぞっとするほど気持ちの悪い、誰も知らないこの世で初めての人工生命体。
 学問的には合成神経細胞群塊(ごうせいしんけいさいぼうぐんかい)と命名し、略してゴセシケ。
 ゴセシケはジョンの脳波で操作でき、しかもゴセシケの一つ目を通して、ジョンは物を見ることができた。
 ジョンは続いて、目の他に耳や歯をつけた改良型ゴセシケも大量に作り上げた。
 ジョンは苦労して、ゴセシケを自在に操れるようになる。

 やがてジョンは、同じく人工頭脳に組み込まれたマーサやデミング博士の脳との意思疎通に成功し、デミング博士から事の真相を明かされる。ジョン達以前に人工頭脳に組み込まれた優秀な脳達も、黙って彼らに協力しているという。
 彼らは「いきた脳クラブ」として、人工頭脳センターを世界裁判所に訴えることにする。
 彼らはゴセシケを通じて、デミング博士の妻・キャサリンにコンタクトし、デミング博士の遺書を証拠に世界裁判所に訴えさせるが……。
 


(書評:幼いお子様には刺激が強すぎるかも……??
       R指定の奇想天外なマッドサイエンスSF!!)



 この本は、私がヤフーの掲示板に作らせてもらった「子どもの頃読んだSF」というトピックで、「ドウエル教授の首」と並んで、不気味でグロテスクだった、と名を挙げる人が多かった本です。そんなに印象に残っているのなら、私も読んでみよう、と思って、近くの公立図書館から借りてきました。確かに、脳だけにされて生かされていたり、不気味なゴセシケという人工生命が出てきたり、殺人シーンが何度か出てくるなど、R指定がつくかもしれません。しかし私は結構楽しめました。

 確かに、ぶよぶよの塊に一つ目がついたゴセシケは、不気味です。
 私が子ども時代に好きだったTVアニメに、「どろろんえん魔くん」(原作・永井豪)がありました。このアニメのエンディングも奇妙で怖い歌でしたが、バックの映像も奇妙で怖いものでした。ゴセシケのようなものがたくさん出てきたような記憶があります。

 しかし、「子どもの頃読んだSF」の82番でotiyuさんが書いておられるように、なぜこの本のタイトルが「合成怪物」と訳されてしまったのか、不思議です。旧版の「合成脳の反乱」の方がいいですね。(新版と旧版のタイトルについては、同じトピックの84番に私が書いております。)

 一流の生化学者であるジョンは、生命を作る研究をしております。この作品が発表された1950年当時、コンピューターやサイバネティックスに続いて、いよいよ生命科学が発展していく時代です。

1945年 ノイマン型コンピューターの概念登場

1948年 ウィーナー、サイバネティックスの概念を提唱

1953年 DNA二重らせん構造の発見

 生命科学が専門のジョンが生命科学を使って作り上げたゴセシケを駆使して大活躍。その後の生命科学の発展を暗示する内容です。

 ゴセシケ1号の誕生シーンは、感動的ですね〜。ベートーベンの交響曲第五番が流れる『鉄腕アトム』の誕生シーンは有名ですが、それを思わせる誕生シーンです。ゴセシケは脳だけにされた人間がロボットを使って作り上げた人工生命だから、やはり大きな出来事です。このSFには、人工頭脳とゴセシケという、二つの大きなファクターがあります。

 また、ジョンがゴセシケの操縦に慣れていく涙ぐましい過程も描かれており、やがて自由に操れるようになった時はうれしかったものです。マーサやデミング博士、その他の人工頭脳の助けも得て、ゴセシケを使って、どんな活躍をするか。すごく面白い展開です。わくわくしてきますね〜。

 この物語はまた、科学技術の暴走に対しても警告を発しているように思えます。

1945年 原子爆弾の投下

 ナチスドイツが原爆を研究している、ということで、アメリカの科学者達は必死で原子爆弾の開発を行ないます。ドイツから亡命したアインシュタインもその一人でした。実際に原子爆弾が使われてから、アインシュタインは、原子爆弾の恐ろしさを悟り、湯川秀樹や哲学者のバートランド=ラッセルらと平和運動を行ないます。
 このように、科学の暴走にストップをかけることができるのは、人間の良心なのです。
 この「合成怪物」の解説で、亀山龍樹さんは書いておられます。


「人が機械にたよりすぎたためおきた悲劇――大きな権力が、あやまった方向にうごいて、人のたましいをつぶしていく、そのことを、生きた脳は、サイバネティックとして、かじをとりなおすのです。
 こういうことは、つくられた物語だけにあるのでなく、これににたことは、これまでにもじっさいにあり、これからだってあることなのです。たとえ、国や政府も、かりによさそうに見えることや、一時の利益のため、よその国とのかけひきのために、あやまった方向にうごきだすことが、これまでにもなかったわけではなく、これからもないわけではありません。そんなときには、ぼくたち国民の責任において「生きた脳グループ」をつくり、ただしくかじをとりなおすために、たちあがらなければならないことを、頭のなかにしまっておきたいと思います。」

 
 人工頭脳センターの陰謀のため、キャサリンは精神病院に入れられてしまいます。ジョンは人間型の人工生命を操って直接訴えようと試みます。大きな水槽の中でどんどん増えていく細胞……。ここら辺、グロテスクです。
 幼い頃、「妖怪人間ベム」という不気味なアニメがありました。そのオープニングがまたグロテスクなのです。それを思い出しました。

 苦心の末出来上がった人間型の人工生命。まるで火事の中から出てきたようなすさまじい顔形、皮膚、曲がった手の指。ものすごい怪物です。

 これを操る時、ジョンとマーサは本当に悲しかったと思います。今までは脳だけでしたが、ゴセシケを操ったり、色々と忙しくてあまり失望する余裕すらなかったと思います。ところが、いざ代わりの体を見るに及んで、体を失ったことがいよいよ切実に思い出されるのです。

 二人の必死の訴えも空しく失敗に終わった時、デミング博士達は、密かにデミング博士が取り付けておいた自爆装置を作動させて人工頭脳センターもろとも爆発します。ジョンとマーサの操る人工生命はその時、公園のベンチに座って爆発を見ています。ジョンとマーサの脳も人工頭脳とともに爆発します。ワシントン市の人々は、ベンチの上で、手を取り合って眠っているような二人を発見します。このラストがいいですね〜。このラストで救われます。単なるグロテスクな作品ではなかったのです。


「わかいふたりは、もうゴセシケではありませんでした。いきていたときのジョンと、いきていたときのマーサのかおだちに、かわっていました。

 ふたりのたましいは、いまは、やすらかな、さめないねむりのなかを、手をつないでたどっているのでした。」

 

2002.4.8(月)
 

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